数日前、BSで録画していた舞台「あわれ彼女は娼婦」という作品を見ました。
舞台セットがものすごく大胆で、完全に抽象的で、すごい重厚感で、むちゃむちゃカッコよくて、話の世界観にマッチしてるというより、話の世界観をむちゃむちゃ引き上げているような、そんなセットでした。
光りの使い方もすごい。
そんな舞台を見ながら、美術や照明のプランナーが、第一線を走っているプランナーが、どういうプロセスで作品を作っているのか、そして自分には何が足りなかったのか、少し分かった気がしました。
過去の自分の信念として、まず、お客さんは役者の芝居を見に来るのであって、美術や照明を見に来るわけではない、あくまで内容を引き立てるために、縁の下の力持ちとして、精一杯やるべき、という考えがありました。
それ自体は間違ったことではないし、「下手に出しゃばってはいけない」と思っていることも、正しいと思います。
が、そのせいで、前までは、「作品に対して、(期待に対して)80%〜100%を目指そう!」という気持ちでやっていました。100%その作品の為になることが出来たら、素晴らしいし、でもそこは120%を目指して、要求された以上の事がやれたらいいな、と思っていました。
最近は気合が入って、100%〜150%を目指すぜ!ってなってた気がします。
自分が考えたモノの中にはもちろん作品のジャマをしてしまうモノもあるわけで、そういったものをいかにゼロにしていくか、作品、役者、歌や踊りの”良さ”を、どれだけ引き立てられるか、という観点でやっていました。
そうやって僕が美術や照明のデザインをするとき、だいたい始めに、200%300%くらい、いろんな要素を出してみて、そこから取捨選択をしていきます。捨てて捨てて100%になった頃には、まあまあ濃密な100%ですが、それをもっと直したり、また増やしてまた減らしてを繰り返して、結局、100ちょっとオーバーを目指します。
それがデザイナーとして正しい道だと思っていたし、それでも第一線のモンスターみたいなデザイナー達がすごいのは、やっぱ経験の差かな、と思っていました。
で、「あわれ彼女は娼婦」を見て、さらに今まで会ってきたモンスターなデザイナー達の仕事ぶりを思い返して、やっと気がついたこと。
モンスターは、120%や150%なんて目指しちゃいない。
400〜500が普通で、クリティカルヒットは800や1000%でやっている。
その作品にとって必要な分の1000%。
ということは、取捨選択作業の前段階では、2000、3000、ポイポイとアイデアを出しているんだと思います。
このことは、かなり、目からウロコでした。
ようするに、120%とか150%とか500%とか1000%とか、そう言った数字が具体的に実感できたことが、目からウロコでした。
今まで考えていたことは、間違っていたわけじゃない。
「下手に出しゃばってはいけない」のは正しくて、「上手になら、むちゃむちゃ出しゃばったほうがいい」という新事実に気がつきました。
役者は役者の、演出家は演出家の、デザイナーはデザイナーの、役割があります。
役割が違うだけで、どのポジションが偉いとか、上だとかはありません。
(だから「先生、先生」とへりくだる必要は、本来ないと思っています)
ただそのポジションで、最高のパフォーマンスをしなくちゃいけなくて、間違っているものは引っ込めるが、正しいものは、遠慮せずにどんどん(余分だとしても!)出さなきゃいけないんだなと思いました。
この事に気がついた事も良かったし、気付く時期が、今が最適だ、とも思いました。
おかげさまで仕事上で幾つか経験させていただいて、また、毎日舞台を見ながら、何が正しくて、何が間違っていて、という判断が、つくようになったとは思いませんが、打率が上がってるな、くらいの実感はあるので、この段階で、正しく、正しいことに気がついたんだと思い、今の自分なら、次の高みにチャレンジできるな、と思います。
ただ、改めて、モンスター達がそんなレベルでやっていたんだ!と気づいたことで、すごく遠い存在だと気付きました。
すごく遠いけど、でも、距離が分かった!すごい遠いけど、見えた!という嬉しさもあります。
昔、妹尾河童さんが舞台美術をやっていた時に、「ははは、セットが役者より目立ってやったぞ、ざまあみろ」と言っていたことがありました。
その頃の僕はとても経験が浅かったので、「役者より目立っちゃいけないと考えてデザインするもんじゃないの?」とか「巨匠はそういった次元を超えてるんだな、すげえや」とか思っていましたが、その頃の僕の段階で、今回のような事を思ったり、気がついていたとしても、本人にとって意味は薄いんですよね。
今思えば、そのセットは、けっして役者を殺していないし、むしろ役者を、演出を、世界観を、むちゃむちゃに引き上げているだけでした。
今は、今目の前にある仕事を全力でやりつつ、早く新しい仕事をやってみたい気持ちです。